<論文>『ホワイト・ゾンビ』におけるゾンビの描写 --シーブルック『魔法の島』と古典ホラー映画との関連から

Abstract

『ホワイト・ゾンビ』(1932)においてゾンビは初めて長編映画に登場した。本作の舞台は当時アメリカの施政下に置かれていたハイチである。また、ここでのゾンビとはヴードゥーの呪術により、意思や人間性を奪われたものであり、奴隷や労働者のメタファーとしてこれまで論じられてきた。しかし本作品には人間へと戻るゾンビや、名前や個性が与えられたものも登場している。なぜこのようにゾンビが様々に描かれる必要があったのだろうか。本論文では、まず第1章で『ホワイト・ゾンビ』でのゾンビの描写から、原作の『魔法の島』との影響関係やその差異を指摘し、それら2作品の登場によって、従来の「ゾンビ」という語の意味が大きく変化したことを確認する。第2章では、映画によって新たに付加されることになった、単なる奴隷の比喩からはかけ離れた「ゾンビ」が、作品における人種表象とも関連して、当時のアメリカ内外における情勢を反映したものであることを分析する。『ホワイト・ゾンビ』には、原作の語りを再現するかのように、筆者の体験と主人公の物語が重ね合わせられていくのだが、当時のホラー作品に典型的な人物配置や映像構成も同時に組み込まれている。これらの存在が、本作品を紀行本の翻案からホラー作品へと橋渡ししている。第3章では、女性のゾンビ化と呪術者の関係性を表現している「視線」のあり方に着目し、同時代のホラー映画との影響関係や本作品独特の表現方法を指摘する。以上、『ホワイト・ゾンビ』におけるゾンビ描写の分析から本作品を再検討することで、『ホワイト・ゾンビ』とは、「植民地」での経験を物語化したものだけではなく、西洋社会のうちに存在した社会的・文化的な諸問題をも提起する作品であることを明らかにする。

White Zombie (1932) is considered the first feature-length zombie film. Prior literature argues that the concept of a zombie emerged from encounters with voodoo magic in Haiti, and the zombie acted as a metaphor for slaves. However, this film contains zombies returning to human form and zombies that are given names and distinctive personality traits. The paper asks why the zombies were presented in this way. This paper first, inquires into the notion of a slave-like zombie responding to the curiosity of Americans from this particular period of the 1930s. It then discusses the representation of a white female zombie, reflecting the complexity of problems such as race and hierarchy inside Haiti, and the position of America in Western society at that time. Finally, it explores the relationship between the magician and the heroine in the context of horror movies from the 1930s. Thus, by analyzing how zombies were depicted in White Zombie, this paper explores how the film acts as not only a documentation of experiences in Haiti, but also how it describes many problems pertaining to social and culture existing in Western society in the 1930s.