<論説>我が国中古における溝渠の規模と構造およびその労働量 : 越前東大寺領について

Abstract

越前国における東大寺領は福井平野の各地にわたり、広大な地域を占める。それらの荘園を開田するに際して溝渠の開さくは不可分の関係にあったため、溝渠の開さくにともなう土工技術が必要であった。そのうち、溝渠の規模・構造・労働量等の史料がみられ、これによってその一端を知ることができる。従来、この観点から沢田吾一氏、宝月圭吾氏、亀田隆之氏、虎尾俊哉氏等のすぐれた研究がなされてきた。しかし、これら諸先学によってなされた溝渠の規模と構造についても、沢田氏と亀田氏の見解には相違があり、また虎尾氏とも異なっていて、そこには種々相があることがわかる。労働量においても、沢田・亀田・虎尾の各氏によって提案された数量も、必ずしも合致するものではない。これらの諸先学の論考を検討し、そこにできるだけ合理的な解釈を数的に試みようとしたのが本稿のねらいである。その結果、史料にみえる丈の長さが、当時の尺度でどれだけあったかを決めないかぎり、溝渠の規模や構造を明らかにすることができないばかりでなく、労働量にもそれが関係することがわかった。ここでは、 一丈は高麗尺一〇尺で、和銅六年以後の唐大尺一二尺ときめ、溝渠の断面は矩形型であったとすれば、与えられた史料を数的に、合理的に理解することができる。また、労鋤量についても、一人一日の労働量を過大評価したり、過少にみたりすることをさけ、妥当な労働基準が存在したのではないかという 前提に立って考察すると、一人一日の労働量の基準をいかなる溝渠にも適用することができる。かくして、諸先学によって種々論考された溝渠の規模・構造・労働量とが共に用尺からくる齟齬や構造上修正を必要とする点などが出てくるのではなかろうか。

The Tôdaiji 東大寺 territory in the Echizen 越前 country occupied the wide region of the Fukui 福井 Plain. As the cultivation of the manors in the region was inseparable from the excavation of gutters, engineering technique was necessary for the excavation, which we can learn from the documents about its scale, its structure, and its labour amount. The former study has been accomplished on this point, which did not agree in quantity of the scale and structure of gutters. This article tries to examine its quantity through possibly reasonably interpretation, considering the former articles. Without definition of Jô 丈 in the documents by the then measure, it proved that we cannot only explain the scale and structure but labour amount. Be "a Jô" 10 Shaku 尺 in the Koraijaku 高麗尺 and "12 shaku in the Tôdaishaku 唐大尺" after the 6th of Wadô 和銅, and the vertical section of gutters rectangular, the given documents should be reasonably understood in quantity. On the supposition that there exists the proper standard of labour about labour amount, the standard proved to be applied to any gutter.