国と九州地方の県・市町村における道州制をめぐる動き --提言と実際的な取り組みに着目して--

Abstract

本研究は, 国と九州地方における道州制をめぐる動きを明らかにするものである. 本稿では, 国と九州地方の行政における提言について検討し, また, 行政職員からの聞きとりに基づき, 各地域の道州制に対する姿勢を示した. 国と九州地方における主要な提言では部分的に差異が見られるものの, いずれについても道州制を導入することにより, 行政のあり方を抜本的・包括的に変え, 地方政府を自治的・自立的・効率的なものとすることを目指す, としている. 九州地方においては, 九州・山口各県の知事と経済団体から構成される九州地域戦略会議と九州全118市の市長から構成される九州市長会が道州制を推進する提言を出しており, 一見すると九州全体が一体となって道州制推進に取り組んでいるようにみえる. しかしながら, 個別の自治体に目を向けると, 道州制を論じる姿勢や道州制導入に向けた実際的な取り組みには地域間で差異がみられる. 道州制の検討を積極的に行っているのは大規模自治体であり, 中小規模自治体では積極的な取り組みがみられない. 道州制をめぐっては市町村合併の進展, 広域的な行政課題の増加, 権限移譲の進展などを理由として, その必要性が主張されてきた. しかしながら, 市町村合併は山間部では進んでおらず, 人々の日常的な行動の広域化は3つの主要都市の周辺のみでみられ, 権限移譲が進んでいるのは大都市で小規模の町村では進んでいない. 道州制導入の理由として主張されることは, 都市部の状況のみを踏まえたものであるといえる. 従来の研究において県や市町村は「地方」として一括りに論じられてきたが, 地域の多様性に注意を向けてみると, 道州制をめぐる提言で想定される地域と異なる地域の姿が浮かび上がってくる. このことが, 道州制を論じる姿勢や道州制導入に向けた実際的な取り組みにおける地域間での差異を生み出していると考えられる.

Re-organization of the prefectures, which would merge the current 47 prefectures into 9 to 11 administrative regions, is one of the main issues of administrative reforms in Japan. Although arguments based on political and financial aspects have been made by politicians and administrative officers, such issues have not been argued from a topography and regional diversity point of view. The merits of larger administrative regions, which are claimed by proponents, do not necessarily take into account Japanese topography. In this paper, (i) a proposal by the central government and 4 proposals from the local governments in Kyushu district are examined, (ii) the gap between these proposals and their materialization are discussed based on interviews with the administrative officers of both central and local governments in Kyushu district, and (iii) a comparison was made between the statistical data and the approaches mentioned in (i) and (ii). This study shows regional diversity in statistical data, such as commuting population, and that current argument supporting the introduction of "dou-shu" system can only be applied to urban areas.