<原著>肺機能に及ぼす ^<60>Co 照射の影響に関する臨床的ならびに実験的研究

Abstract

放射線照射による肺障害については, 臨床上古くから放射線肺炎あるいは肺線維症として知られている。また, 機能的にも肺の拡散能力が低下することは, すでに指摘されている。わが国においても, 増加しつつある肺癌に対して放射線照射療法が行われる場合も多い。従って, 肺癌患者の肺機能やそれに及ぼす放射線照射の影響を把握しておくことは, 肺癌の機能的外科的適応を決定したり, 放射線照射療法後の機能的予後の推定をしたりする上に, 臨床上これを欠くことができない。一方, 肺の拡散機能については, 今日に至るまで, その生理学的意義について数多くの研究がなされ, かなりの成果が挙っているにも拘らず, なお不明の点が多いようである。そこで, 著者は, これらを明らかにすべく, 臨床的には, 肺癌患者に拡散機能を主とした種々の肺機能検査を行い, 拡散機能とその他の肺機能との関連を考察し, 併せて, 肺機能に及ぼす^<60>Co照射の影響を経時的に, かつ可及的長期にわたり検討した。また, 実験的にも, 犬の胸部に^<60>Co照射を行い, 拡散機能を中心に肺機能の推移を追求して, 肺機能に及ぼす放射線照射の影響を確め得た。さらに, ^<60>Co照射を行った肺の組織を得て, これを病理組織学的に検索し, 肺の組織構造の変化から, 肺の拡散機能を検討して, 次のような2, 3の結論を得ることができた。すなわち, 1)肺癌患者では, 肺の拡散機能の低下が認められるが, これは肺癌患者に特有のものではなく, 肺癌に合併した老人性肺気腫に原因するものである。また, 肺胞膜拡散能力と肺毛細管血量も同時に減少しており, これらは拡散能力と正の相関関係を示すことから, 肺の全拡散能力が両者に平行して影響を受けていることがわかる。2)肺の全拡散能力は, ^<60>Co照射によって照射後短期間は大きな増減を示すが, その後時間の経過とともに, 照射前に比べると, 徐々に減少して行く傾向を示す。このことは, 肺胞膜拡散能力および肺毛細管血量についても認められ, 肺の全拡散能力が両者の変化にほぼ比例して影響を受けていることを示している。3) ^<60>Co照射によってもたらせられた拡散機能の変化は, 肺の拡散機能に二次的に影響を与えると考えられる因子の変化によるものではなく, 放射線が肺にひきおこした病理組織学的変化によって, 直ちに説明できるものである。つまり, 照射後の短期間の異常な増減は, 肺の急性炎症によって, また, その後の漸減は, 炎症吸収後に現われる線維化によって招来されると考えられる。4)以上の肺の拡散機能の変化は, 照射した線量とは一定の関係が認められず, また, 胸部X線所見とも平行しないことから, X線所見では掴み得ないような肺の病理学的変化を, 機能的に探知することが可能であり, 放射線照射後に拡散機能を測定することの重要性が理解できる。

Lately, radiation therapy with ^<60>Co has advanced and been carried out more extensively in patients with lung cancer, who have increased in Japan as well as in Europe and the U. S. A. It is necessary to understand the pulmonary function of the patients who have lung cancer and the effects of thoracic radiation in order to make a functional prognosis of the cases or to decide on the indication for surgical treatment. In this study, pulmonary diffusing capacity including D_M and Vc, lung volume, ventilatory function and intrapulmonary gas distribution were measured in patients with lung cancer, and in patients who had radiation therapy to the chest. The measurements were done periodically, and as late as possible after the radiation. The result revealed that the diffusing capacity of lung with cancer was lower than normal, probably due to the senile emphysema accompanying lung cancer, and that only the diffusing capacity was affected to a great extent by the radiation to the chest. On the other hand, the pulmonary diffusing capacity was also measured in experiments before and after radiation by ^<60>Co to the chest of dogs. The lung tissues of the dogs that had died of radiation pneumonitis or had been killed, were extirpated for histologocal examination. It was found that the changes of the pulmonary diffusing capacity might be atributed to the alterations in the thickness and permeability of the alveolar membrane and the decrease in the capillary bed.