1954年の揚子江大洪水について

Abstract

1954年の夏, 揚子江の全流域にわたって.大洪水が発生し, 8月18日15時には漢口の水位が呉瀬基準面(ほぼ上海の最低低潮面, 以下高度の基準はすべてこれによる)上29.73mに達した。漢口における過去の最高水位28.27m(1931年8月19日)を遙かに破る記録である。漢口において揚子江の水位観測が開始されたのは1865年であるから, 1954年の最高水位は過去ほとんど100年間の最高記録であるGこれに匹敵する洪水がそれ以前にも果して起ぎたか, どうか, については記録がないからわからないが, 恐らく800年に一回位の洪水てあろうと推定されている。この洪水については当時わが国の新聞にも報道されたが, 詳しいことは知るすべもなかった。わたくしは昨秋, 中国科学院の招聘による訪中水利科学代表団に参加して中国を訪れた際, この洪水について若干の資料を得たので, これを一応とりまとめてここに報告いたしたい。もとより, 甚だ断片的であって, これから洪水の全貌をうかがうことはできないけれども, なんらかの参考資料ともなれば幸である。

In this paper some aspects of the great flood of 1954 of the Yangtze-kiang which is estimated to have occurred probably once in eight hundred years aredescribed. After introductory remarks in the first chapter, the rainfall of China, especially that in 1954, is outlined in the next chapter. Basing on some records ofthe river stage, flood conditions in and around the Poyang and Tungting Lakes areexamined in the succeeding chapters. In the last chapter. The effect of the recentlyestablished Chinkiang diversion project on this flood is analysed and its success isconfirmed.